2016年3月26日土曜日

「司書の書誌」第16回 司書の場所

前回も少し書いたとおり、最近、コミュニティの中心としての図書館(もう少し広くいうと、「場としての図書館」)という議論を目にします。

確かに、みなさんが「図書館」といって思い浮かべるであろう身近な図書館はそうあるべきかもしれませんし、今後、予想される社会の変化の中では、その機能の重要性は、一層高まるモノと思われます。

しかし、市区町村立ではなく、都道府県立図書館(以下、府県立図書館)の場合は、いささか事情が違ってきます。

たしかに、たとえ府県立であっても、その図書館が存在する場所の近くに住む利用者にサービスを提供するコトは、もちろん大切な使命です。しかし、府県立の場合は、本来的には、その図書館がある地域だけでなく、その図書館が所属している府県域全ての図書館や利用者に対し、均等にサービスを提供しなければなりません。

そういった意味で、府県立図書館は「場所」ではなく、「機能」であるべきだと思います。

そのため、府県立図書館は、本来は場所の制約から離れ、ユビキタス、つまり、「偏在」しなければなりません。
「ユビキタス・コンピューティング」の元になった坂村健さん「どこでもコンピュータ」にならえば、まさに、「どこでも図書館」な訳です。

そういうと、どうしてもスグに、ネットを活用して利用者に提供可能なサービスを……という発想になりがちですが(もちろん、それは非常に有効ですが)、もし、府県域全体にあまねくサービスをしようと思うと、当然、そのような環境をもたない利用者もいらっしゃるかもしれませんし、仮に、環境はあっても、使用方法自体に支障のある利用者もまだまだいらっしゃると思います。

そこで、「どこでも図書館」を実現しようとすれば、ネットの利用と同時に、リアルな措置もとっていく必要があります。

結局、どうしても、そういったリアルなサービスの拠点はそれぞれの市町村図書館(もしくは、それ以外の機関)にならざるを得ないため、府県立は、そのバックアップを通じてサービスを提供するコトになります。

市町村のバックアップとしては、もちろん、実際の資料(図書)を提供するというカタチもありますし、その他の情報を提供したり、市町村図書館では受けきれなかったレファレンスを引き受けるという方法もあると思います。

また、先駆的なサービスを(実験的に)実現し、市町村図書館のモデルやテストの場になったり、さらに、それぞれの機関の潤滑油になるという方法も考えられます。

とにかく、「偏在」、つまり、どこにもいるというコトは、逆に言うと、あたりまえすぎて、なかなかその存在に気付きづらくなるというコトでもあります。

「縁の下のチカラもち」は、少なくとも、縁の下をのぞけば見える訳ですが、「偏在」する図書館は、もっと空気のような、全く目には見えないし、意識にものぼらないけど、いざなくなると、全てのヒトが困るような存在になるのが理想かもしれません。

……なかなか評価されにくい立場ですが(笑)。

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