2016年2月4日木曜日

「司書の書誌」第9回 司書のジレンマ

もしかしたら、みなさんの中には「図書館の複本問題」というコトバをお聞きになったコトがある方もいらっしゃるかもしれません。
図書館が人気のある本(少し前では『ハリー・ポッター』とか、最近では『火花』とか)を一度に何冊、時に何十冊も購入し、利用者に大々的に貸し出すのは、いろんな意味でいかがなものかという問題。

もちろん、図書館側からの反論はありますが、ただ、図書館の場合、よっぽど特殊な場合(郷土資料とか)を除いて、同じ本はたいてい1冊しか所蔵していません。

しかし、これはこれで別の問題があります。

スグに分かるコトですが、ある利用者がある本を借りると、同じその本を利用したい他の利用者は、その時点では使えず、予約をし、前の利用者の利用が終わった後に、その本を受け取るコトになります。

しかし、「読みたい!」と思った時が読みたい時ですし(そのままですが(笑))、勉強や仕事などで、必要だと思った時に必要な本が使えなければ、全く意味がありません。

本来は、どの利用者のニーズも、同価値のはずです。
それが、少し(場合によっては、数分)早く借りただけで、あとの利用者の利用が非常に制限されるというのは、これはこれで大きな問題だと思います。

もちろん、「本は1冊しかないんだし、2人は同時に借りられないんだからしょうがないじゃん」と言ってしまえばそれまでなのですが、そこで止まってしまっては、何も進歩もありません。

で、ごく簡単に思いつく解決策が、今なら電子書籍のカタチで提供するコトです。

これなら、確かに必要な方達に、同時に何人も利用してもらうコトができます。
しかし、「図書館の無料原則」を貫くならば、今度は本の提供者側にとって、複本の場合と同じ種類の問題をはらんでいるコトは明らかです。

最近、複本問題とは別に、本の提供者側から、図書館での新刊本の貸出を制限して欲しいという要望が出てきています。

タマゴを得るために、ニワトリを殺してしまってどうするんだという出版社の主張自体は、そのとおりだと思います。
一方、図書館側も、印象ではなくしっかり数値を用いて、本の売上に対する図書館の影響はほとんどなく、むしろ、貢献している面もあると反論しています。

ただ、なんとなく議論が噛み合っていないというか、隔靴掻痒と感じているヒトが多いのではないでしょうか?

この件に限りませんが、そもそも多くの側面があるモノを、ひとつの方針で解決しようとするコト自体にムリがあるように思います。

本来、本には「文化財」としての公共的な面と、紛れもない「商品」としての経済的な両面が分かちがたく内在しています。
それだけでもややこしいのに、本の提供者側についても、その立場や規模によって、まったく別の(場合によっては逆の)ニーズがあります。
(例えば、「もっと図書館に買ってくれ!」という出版社もあるのです)

しかし、図書館側も、個別対応は難しいですし(出版社単位どころか、今は、個別の本ごとに違う対応を求められています)、結果として、それがなんらかの恣意的な判断につながれば、今度は全く別の深刻な問題にもなります。

……というトコロで、ボクの思考はいつも堂々巡りをしてしまいます。

インターネットの普及で誤解が進んでいますが、ある同僚が言っていたように、情報を得るためにお金がかかるのは、全くそのとおりです。
しかし、そうすると、持つモノがさらに持つようになってしまいますし、そういった社会的な格差の是正も図書館の使命のひとつと考えると、簡単に「読みたいなら買え。そうでないならガマンしろ」とは言えない訳です。

……やっぱりムズカしい……

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